新しいブログの設定作業、過去の記事の加筆訂正、もちろん商品登録などの通常業務も……、とにかくパソコンに向かっている時間が長かったここ数日。
こういうときは無心に手を動かすような仕事が良い息抜きになるかと思いまして、合間をぬっては傷んでいる本の修理などもしておりました。
後から自分で参考にするための覚え書きも兼ねて、その作業工程を記録しておきます。
サンプルにしたのはこちらの一冊↓
『換魂綺譚―アヴァタール―』テオフィル・ゴーチエ著/訳:林憲一郎 創元社 昭和23年
インドで人間の魂を入れ替える術を体得した怪医師シェルボノーと、その力を借りて不貞の恋を成就させようとする青年オクターヴ、思いを寄せる相手の夫・ラビンスキー伯爵の顛末を描く中篇小説。
不思議な設定ながらストーリーは込み入っていませんし、あざやかな起承転結といい、過剰な襞を排除した人物造型といい、浪漫といいアイロニーといい、まるで古めかしい演劇の佳品を見たような読後感が味わえる一冊。
著者のゴーチエは劇作家でもあり、バレエの名作『ジゼル』の台本も彼の手によるもの、と聞けば、なるほどと肯けるものがあります。
補修前の状態と準備
さて、本の内容についてはこれくらいにして、問題はその状態。
ページがこの有り様です。
破れ部分の長さは約2cmといったところでしょうか。
さいわいだったのは、破れ目が折れたり擦り切れたりしておらず、隙間なくピッタリと合ってくれたこと。これなら「全く補修跡が分からない」とはいかないまでも、読んでいて気にならない程度にはできそうです。
おもな道具はこんな具合。
・でんぷん糊 ・水 ・小皿 ・筆 ・和紙 ・タオル(またはキッチンペーパー) ・クリアファイル
それから、ここには写っていませんが、木材などの固くて平らな板と、何か重石になるもの、それからコピー用紙でもメモ紙でもかまわないのですが、紙を何枚か用意しておきます。
和紙で破れ目を接ぐ
まず、でんぷん糊を水で薄めます。
薄めすぎると後で剥がれやすくなりますし、濃すぎると伸びてくれず仕上がりがガタガタになります。
しかしまあ、どちらがマシかと問われれば、ワタクシ個人としては、やり直しの効きやすい薄めのほう、ですかね……。
表紙・見返しなど強度の必要な修復は厚手の和紙を使いますが、ページを補修するときなど、補修跡が目立たないようにする必要があるときは薄い和紙。
今回使用しているのは楮紙の3g/m2というタイプ。字の書いてある部分に貼っても問題なく読むことができるくらい薄いものです。
破れ箇所の形、大きさに合わせて和紙をちぎります。
ハサミで切ると継ぎ目がハッキリわかってしまいますが、手でちぎって縁を毛羽立たせると継ぎ目がぼやけてくれるわけです。
最初に薄めておいた糊を、筆を使って和紙の上から塗っていきます。
(写真が撮れなかったので、他の本を補修した際のもの)
塗る量も少なすぎるとうまく着いてくれませんし、多すぎるとページが余分に濡れてしまうので注意。
これもやはり個人的には、やり直しが効くよう、少なめに塗って徐々に塗り足していくほうが良いかな、と思っています。
和紙の内側から外側に向って、縁の繊維をページになじませるように筆を使います。
乾燥
糊付け直後の状態
この段階で余分な水気があまり付いていない、というのが望ましい状態。
さらにタオルやキッチンペーパーなどで軽く押さえ、水気を取りつつ和紙とページをなじませます。
2枚の紙でページを挟み、さらにクリアファイルをかぶせる
ここから本を閉じてプレスするので、さらに微量の水分がにじむ恐れがあります。2枚の紙はその水分を吸わせるためのものですが、ビショビショに濡れるわけではないので、普通のコピー用紙やメモ紙で充分だと思います。
吸水性にこだわってティッシュやキッチンペーパーなどを用いると、かえってページに貼り付いてしまうリスクがあるかと思います。
クリアファイルはいわずもがな、他のページが湿ってしまうのを防ぐためです。
本を閉じ、板と重石で押さえる
本当ならば大きいクランプ(万力)が欲しいのですけど、案外イイお値段なので、今はこういう方法をとっています。
ページが湿気で波打つのを防ぐための処置ですので、充分すぎるくらいの重量でプレス。
通気性がほとんどないぶん、乾燥には時間がかかります。今回はこの状態で丸一日近く置いておきました。
補修後の状態
以上で作業は終了。
とりあえず今回の補修はこんな具合に仕上がりました。
この方法は今年に入ってから、書き損じの便箋などを使って練習しはじめたのですが、まだ改善の余地はあるものの、どうにか売り物に手を着けられるくらいにはなりました。
でんぷん糊と和紙を使ったこの方法の一番優れている点は、丁寧に作業してさえいれば少々の失敗はやり直しが効くということ。
そういうわけで、今は失敗もしながら試行錯誤を繰り返している段階です。
ワタクシ自身の覚え書として記録したものが、何か部分的にお役に立てれば幸甚ではありますが、けっして「お手本」などにはなさいませんよう……。